〒730-0011 広島市中区基町6-78
TEL:(082)502-1121 / FAX:(082)228-5415
http://www.rihga-hiroshima.co.jp/index.htm

2010年8月

 <旅のスタート>
 長期の旅行ができるように、8月後半のスケジュールは空けておいた。
 語学教員たちは、今年はフランスで落ちあう計画を立てていた。
 当然わたしも、それに参加するつもりであったが、妻が「今年はわたしの番だ」と強硬に主張する。

 それもそうだと思うし、今後のこともあるので、妻に譲ることにした。

    *注釈--夫婦で旅行しない理由
      二人の息子も二十代後半に入り、夫婦だけで旅行できる年頃になったのだが、
    八十半ばの実父が気弱になり、「二人一緒に家を空けるのはやめてくれ」という。
    そのために、カップルでの旅行はできないでいる。
      ならば、父も同行させるという考えもあるのだが、父の性格を考えると、躊躇して
     しまう。

 妻はイタリア通の友人と渡航するつもりでいたらしいが、その友人の親が倒れたために友人の渡航が困難になり、妻の目論見も泡と消えたのである。
 ならば、実家に帰省するなどの選択肢はあるはずだが、仕事が詰まっていて8月中には無理だという。9月の連休に帰省する案を提言したら、そのつもりにはなったようだ。

 スケジュールが詰まって、旅に出られない妻、旅に出られるようにスケジュールを調整したわたし。
国外はともかく、国内なら妻の反発も少ないだろう。
 旧満州や沖縄を断念し、広島に行ってきたい旨を告げる。「自分の親をわたしにみさせて、自分は旅行かい」ときたもんだ。わたしが不在の夜、父は母屋からたびたびやってきては、戸締まりは大丈夫かとか、今夜はどこに泊まるんだとか、明日のスケジュールはどうなってるんだとか、しょうもないことを言うらしい。それで妻は消耗してしまうらしい。

 いつもは母命の長男が、珍しく加勢してくれた。「父さんは、取材が主目的なんだよね」と。そうなんだよ、息子よ。わたしの話をよく隅々まで聞いていてくれたね。講義用教材を作るときに、自分で思い通りに撮影した写真がないと、納得のゆく教材が作れないのだよ。
 妻は、その場では了承はしなかった。その後、ことあるごとに広島の情報を引き出すべく、話題を振った。妻は仕事で何度も訪れているから。そして、出発するならば火曜日だとも言った。

 こうしてわたしは、寝床にいる妻に「行ってくるよ」と言い、一日に上りが3本しかない路線バスで旅立った。

広島へ
 キャリーバッグがあるので、ラッシュ時間は避けた。だがそれによって、総武線も京葉線も特急の走る時間帯となる。わたしの最寄り駅と東京駅との営業`が50qをわずかに超えるために、特急料金が900円に跳ね上がるのだが、乗り換えずに済むし、早いし、楽だし、「さざなみ4号」に乗車。
 蘇我で満席になり、キャリーを足先に置くはめになる。それが可能なのだから、シートピッチはJAL機とは比較にならない。武蔵野線での急病人発生の影響で多少、遅延したが、新幹線乗り継ぎへの影響はなかった。

 のぞみ23号では、16号車15番A席を席番指定して乗車。
 新横浜発車時点で、B席のいくつかを残して座席が埋まった。名古屋で乗客が入れ替わった後、京都を過ぎると乗客は減る一方だ。岡山を発車すると、5人になった。

 新大阪にはRailStarがおり、岡山では短くなった500系、広島では100系をみた。
 乗車券類に無効印をもらい、ヒロデンの人となる。暑い、汗が噴き出る! だが旅先だから動く。家でクーラーかけて寝ているより、有意義な人生を送れるというわけだ。

ホテルの選択
 広島は二度め、前回は14年前。最終目的地山口への途中に立ち寄り、原爆資料館を見学しただけ。妻の一族を案内する添乗員の役割だった。

 で、泊まるのははじめて。中心街のホテルとしてはリーガロイヤルとクラウンプラザがある。前者にはJALのマイルが加算されるプランがある。後者に泊まれば、ハイデルベルグ以来のメンバーだから宿泊ポイントが付く。だが、後者は部屋が狭いのに料金は高い。よって前者に決める。ロイヤル系に泊まるのは、四半世紀前の大阪本店以来のこと。

 紙屋町東で降りたところ、交差点からはかなり離れている。交差点に横断歩道はない。地下道だ。エスカレーターとエレベーターでそごう前にたどり着く。地下道など建物内部を通っても行けるのだろうが、初めてのことでわからない。陽を遮るもののない歩道をバッグを引いてトボトボと。

 コーヒーハウスをみつけ、その横にホテル入り口をみつける。
 ドアマンも、ベルマンもいない。向こうからやってくる客をかわしながら進むと視界が開け、ロビーに到着。バッグを引いて、レセプションにたどり着く。
 電話をかけている係の前に立とうとしたら、正面玄関から来た男に先に立たれてしまったので、後ろに付く。すぐに奥から係が現れ、手続がはじまった。
 「こちらの都合で、お部屋をツインに変更していただきたいのですが、よろしいですか」と言う。
 ネット専用プランで、定価の半額以下のシングルを予約したところのアップグレードなのだから、異存はない。
 「前日予約なので、デポジットをいただきたい」というので、クレジットカードをプリントしてもらう。
 マイル加算手続はチェックアウト時に行うとのこと。リーガロイヤルと提携しているホテルのポイントをもらえないかと問うと、「お客様のプランでは、希望に添えない」と言われる。格安プランではダメということで、これは致し方ないのだろう。
 事務的ではなくテキパキとこなし、笑顔を絶やさない対応であった。

 いつの間にかベルガールが後ろに控えており、その案内で客室へ。
 エレベーターは階数ごとに別れている。

客室
 18階の北側にアサインされた。ドア上の案内図によれば、南側(平和公園側)にはシングルが並んでいる。南向きは朝の日差しが強く、ゆっくり寝ていられないので、北側が好み。だから歓迎だ。

 ドア横のポケットにカードキーを差すと、ルームライトが点灯するしくみ。窓はレースカーテンが引かれている。遮光カーテンは両脇にある。窓下には、風景の案内図が置かれている。

 【客室から美術館の向こうに広島城を望む】
 

 ドアを入ると、奥への視野を遮るごとく、壁が突き出している。窓際テーブルには、リクエストした電気スタンドが延長コードにつないでセットされていた。
 予約したシングルは22u、こちらは30u超なので広々としている。だが、何かくすんだ雰囲気が漂う。北側だからという理由ではないだろう。建物、調度品が古いのだろうか。



 ベルによる設備の案内は断った。だが、safty box の在処がわからなかった。どうしても使う必要があったわけではないので問い合わせはしなかったが。

 バスルームとの間に段差はない。わたしが一流ホテルと認める際の第1基準である。
 ひげそり鏡は自在には動かない。シャンプー類は壁に固定。タオルは3枚の2セット、ツインだから。
 水温は冷水と温水のバランスを自分で調整するので、一度安定させると止めたくはない。節水しにくいのではないか。そんな横着なのはわたしだけか。水圧は十分で、シャワー先端部が踊り出すのではないかと心配したが、そんなことはなかった。

 トイレが問題だった。用を足したが、ハンドルが効かず水が流れない。ハンドルを動くままに一回転させてみたら、スカスカになってしまった。しかし、流さなければ係を呼ぶのも気がひける。水槽の蓋を開け、適当に部品をいじって、排泄物を流すことはできた。しかしハンドルのスカスカは直せなかった。後は係に頼むことにして、水槽の蓋を閉めた。内部は汚かった。


 夕食のレストランに行く前に、トイレの水が流れないとフロントに通告。「修理に時間がかかることもあるので、部屋を変えようか」と提案されたが、広げた荷物をまとめるのも面倒なので、修理を依頼する。食事から戻ると、修理は終わっていた。ハンドルを向こう側に押すと水が流れた。グルリとは廻らなかった。水槽は縁の汚れの半分が拭き取られていた。フロントに、修理済み確認の電話を入れたのは言うまでもない。

        【客室の廊下】                  【エレベーター・ホールの椅子】


レストラン
 一泊目の夕食は、中国料理「龍鳳」とする。
 電話で予約をしようとするも、客室内に内線番号を記したものは見つからない。だから、交換台に取り次ぎを頼む。電話を受けたKさんは、二つ返事で受けてくれた。急いで行ってみると、わたしの直後に来店した客を含めても三組数名しかいなかった。
 時刻も遅かったので、生ビールとつゆそば、デザートに杏仁豆腐を頼む。
 ところが、つゆそばを食べ終わらないうちに、デザートが運ばれて来た。服装からするにバイトクラスよりは上の女性スタッフと思われる。これが一流ホテルのレストランですることだろうか。ロイヤルの名前が泣くというものだ。
 つゆそばを食べ終わった後も、食器を動かさず、デザートにも手を付けず、件の女性スタッフを注視していた。しかし、配膳が終わったと決め込んでいる彼女は、わたしに目をくれようともしない。
 Kさんに合図して来てもらう。「食べ終わらないうちに、もって来たんだよね」と言うと、「わかりました。冷たいものと取り替えてきます」と言って、すぐに対応してくれた。件の女性スタッフにも、なにやら声をかけていたが、彼女はわたしに気を遣う様子を見せることもなかった。こんなことを気にする客もいないのかも知れない。

 食べ終わったころを見計らって、Kさんがやって来た。あらためての詫びはなく、料理はどうだったかと聞く。スープのごまの風味が良かったと褒めると、杏仁豆腐はどうだったかとたたみかけてくる。本来なら寒天を使って固める成分をタレとして使っている工夫の産物だという。寒天で固めた豆腐がないのに杏仁豆腐の味がするので、不思議には思っていたが、そういうことだったのか。
 その後は、さまざまな話題で話が弾んだ。
 彼の奥さんが千葉県の出身ということで、千葉県の話題。翌日のわたしの行動では、宮島に絞るのがよいとアドバイスをしてくれた。これまでのわたしのホテル体験を話すと、とても興味を示してくれた。鉄板焼き店での「お好み焼き」は、こんど提案してみたいと言った。ロイヤルのグループホテルでは、中国料理店はみな、「皇家龍鳳」なのに、広島だけは「龍鳳」であり、同等にはみられていないように思えて悔しいとも。
 1時間くらい話して、店を辞した。Kさん、エレベーターまで見送ってくれた。

 朝食付きプランなので、コーヒーハウスのビュッフェと和食を選べる。料理を取りに立ち歩くのも億劫なので、和食堂「なにわ」に行く。
 入り口には係はおらず、「奥へ進め」との案内がある。寿司や天ぷらのカウンターを抜けると視界が開け、テーブル席が現れる。フロアは4人で切り盛りしている。
 「窓側は直射日光が強い。壁側とどちらにするか」と問われ、壁側とする。ご飯とおかゆで、おかゆを選択。ナプキンは紙製。客は数組、前夜の中華と合わせて考えれば、行楽シーズンではあるけれど宿泊客は多くないことがわかる。

 すぐに食前酒ならぬ飲み物が供される。にんじんと豆乳のジュース、そしてほうじ茶。ジュースは一口飲んだあとなので、量は少なく見える。

 待つほどもなくお膳が運ばれる。
 焼き物は「鮭」。自宅ではほとんど食べないが、朝食料金1700円がもったいないというべきか、食い意地が張っているというべきか、血合いまで食べる(家では血合いは食べない)。

 二泊目の朝も「なにわ」。
 早起きして河川敷広場へ行き、アストラムラインに乗ってきたので、猛烈に空腹であった。
 ウエイトレスは前日と同じ方だったが、わたしのことを覚えていないとみえ、何にも問いかけてこなかったので、昨日も利用した旨を伝える。そうしたら、時間は多少かかるが別の献立で用意すると応じてくれた。ご飯を選択。
 10分はかからずにお膳が運ばれる。焼き物は鯖の味噌煮。家では絶対にないもの。焼き物が違うだけだろうと予想していたが、他の献立も器も一新されている。西日本のトップホテルの系列なのだから、これくらい当然ともいえるのだが、お見事。

     【一泊目朝 鮭、おかゆ】                【二泊目朝 さば、ご飯】



ランドリー・サービス
 和食堂に続いて、これにも感心した。
 洗濯物に付ける識別用のタグだが、靴下の左右を安全ピンで結び、そこに付けている。靴下をこのように結びつけるやり方は初めてだ。他のホテルではビニル袋に封印されていることが多い。左右が離れないようにどのような工夫をしているのだろうか。
 他のものでも目立たないところに安全ピンでタグを取り付けていた。安全ピンとて、生地に穴が空くわけだから、お見事な扱いとは言い切れない。高級品の場合には別の対応をしているはずだ。
 だが、信じられない付け方をするホテル(業者)もある。西日本のあるホテルでは、下着シャツの襟首のところに紙止め用のそれよりも大きく太いホチキスで止めていたのだ。シャツにはハッキリわかる穴が空いた。クレームを付けると、チェックアウトの際、副支配人と業者が謝罪にやってきたのだった。
 中部日本のあるホテルでは、シャツの裾部分であったが、太いホチキスを使って止めていた。これでも穴が空いた。クレームを付けると、早速業者と検討し、タグをのり付けするやり方に改めたと報告があった。


ベル・サービス
 帰宅前に会議があるので、キャリーバッグを宅配便で送る。ベルに部屋まで来てもらう。小柄な女性が台車持参で来てくれる。メジャーを持ち出すまでもなく、料金を伝えてくれる。さすがである。送料は部屋付けで支払うことにする。部屋付けにできないホテルが結構あるのだ。

LANサービス
 部屋での接続は、24時間で1050円。ロビーには15分で100円のPCスポットがあるという。
 ロビーへ降りようと考えたが、慣れた機械で時間を気にせずに使える方がよいので、有料LANを利用した。都心では、24時間・1500円をとるホテルもある。PCは秘書が扱い、自身で操作しない役員が利用するのだから、高額料金でも問題にならないのだろうと、当初は考えていた。
 だがいまの時代、PCを使わないで仕事をする役員なんて、いないのではないか。もう有償の時代ではないと思うのだが。

キャッシャー
 チェックアウト・タイムの11:00を10分ほど過ぎていたので、客はまばら。
 部屋番号を告げると、いきなり合計金額を告げられた。そしてもう一度クレジットカードを求められた。チェックイン時にはカード番号を預かっただけで会社の承認をとっていないということで、先の用紙は破棄された。そしてようやく明細書が示された。宅配便送料も付いていたし、OKと伝えると、カードでの決済に取りかかり、サインを済ませた。
 東京のホテルでは、まず明細を示し、確認させた後、支払手段の選択を聞いてくる。西日本は違うのだろうか。大阪の外資系ホテルでもこのような手順がとられていて、面食らったことがある。
 JALのマイル加算手続は、こちらが言い出してからはじまった。マイル加算のプランなのだから、この手続を忘れられては困るのだ。これは減点でしょうね。
 係は明細とカードのレシートを折りたたみ、封筒に入れて手渡してくれた。これが一流ホテルと認める第2基準だ。

 もう一度平和公園に寄りたかったので、旧市民球場側の出口から出立。業者の搬入口を通って街に出た。
 この日も多くの人が訪れていた。アメリカ市民もいるはずだ。「戦争の早期終結のためには原爆投下は仕方なかった」という考えをもつ者が、原爆被害の実相を知ったら、どう変わるのだろうか。


東京へ
 ヒロデンで広島駅へ。地下で食料を買い込み、乗車。のぞみ124号5号車5番E席
 始発なのでガラガラ。京都でやっと満席となった。窓下のコンセントから電源を取り、PCをずっと操作し、旅の記録を綴った。
 新横浜を過ぎて急に思い立ち、品川で総武快速に乗り換えることにする。それはもう、慌ただしく降りた。
 乗り換え改札で、二枚のICカードの操作に自身がなかったので、どうしたらいいのと駅員に聞いてみた。「二枚一緒にタッチ」との指示に従い、無事に通過。
 エアポート成田から内房線に乗り継ぎ、最寄り駅。

 会議参加者ともみじ饅頭を味わう。


<旅の後始末>
 一日目、原爆ドームをケータイで撮って、妻宛に送信した。いつもなら、ひと言でも添えた返信があるのだが、ない。言葉を荒げたあとでも、口をきかないなんてことはなかったのに。二日目には宮島ロープウェイから送信した。それにも返信がない。三日目に町内会月例会へ出席可能性を問い合わせ、これには返事をよこせと特記して送信した。
 そうしたら、都合を聞いているのであって、出席してくれと頼んでいるわけでもないのに、急に言われても困ると、とりつく島もない返信が来た。

 会議を終えて帰宅したのは21:00過ぎ。妻はすでに部屋にこもっていた。食事の用意はない。次男の食料と一緒に買い求めたカップメンが役に立った。
 その時、次男が言った。「父さん、母さんに言わないで出かけたんだって?」と。

 「エ、エェーッ!」
 あれだけ、広島の、宮島の情報を行くことを前提に聞き出して、行ってくるよと言ったではないか。
それで行くことを知らなかっただってェ〜! さすがPandaだ。
 あれから3週間、正常に戻っている。        (2010.09.19記)